たいそう呆気なく、ぽかりと目が覚めて。
いつもの自分の部屋とは趣きが違ったが、
見覚えは重々ある、居心地の良い部屋だ。
部屋の中はもとより、外からの物音も届かぬ静かな室内は仄かに明るい。
少しほど寒かったが、震え上がるほどってレベルじゃなし。
ああそういや、日本海側や北海道じゃ雪がひどいとか言ってなかったか?
空港が雪で埋まって帰省の足に大きく影響とかってニュースで言っていて。
外にいるときゃ、テレビは勿論、FMも聴かねぇのに、
何でまたそんなリアルタイムの時事を知ってたかといやあ。
年末に馬鹿騒ぎして首都高速や富士山近辺で暴走する、
くっだらねぇ何たら族と一緒に取り締まられては洒落になんねぇからって、
そっち方面の情報、
後ろのシートにいた坊主が小型のモバイルで逐一チェックしてやがったからだ。
“………あ〜〜〜、そうだった。”
日付が変わる寸前に辿り着いたこの山荘にて、
一応は“カウントダウン”の真似ごとをし。
そっから“ご来光も観る”なんて駄々…もとえ、
強情張った誰かさんに付き合って、
ほんの数時間前までは何とか起きてて。
黎明の不思議な青をどんどんと薄めてゆく張本人様が、
ようやっと昇って来てのこと。
遠い稜線がそりゃあ見事にくっきりと浮かび上がる様へ、
こりゃあ新年早々すげぇ良いもの観れたなと、
じんわり感動しつつ見下ろした懐ろじゃあ、
肝心要な言い出しっぺ様が気持ち良さそうにくうくうと沈没しており。
そっとしときゃあ後で不貞腐れようし、
かと言って今起こすのもそれはそれで怒るんじゃないかとか、
こんな小さいの相手に一瞬葛藤したのもまた、
この一年を暗示してんのかなと思うと感慨深くて。
『一遍くらい、ルイとだけでカウントダウンしてぇ。』
いっつもさ、カメレオンズの皆とばっか一緒だったりしてよ。
俺はガキだからって、
除夜の鐘聞きに行く初詣でくらいしか付き合ってくれねぇじゃんか。
そんな言いようをして、珍しく駄々こねた誰かさん。
これまでは素直に早い時間に帰るのを享受していたヨウイチだったけれど。
それは…自分が居ないということは家ではお母さんが独りで過ごすということ、
そうと思えば居たたまれなくなるからだったから。
これまではそうだったものが、今はお父さんが居るからと、
心から晴れ晴れと“自由行動楽しむぞ〜っ”というモードになってるらしくて。
“こんの気ぃ遣いが。”
自分のすぐ傍らに、
柔らかな羽毛の布団と一緒くたになってにごろんちょしていた、
小さな存在に気がついて。
うっすらと開いたお口も愛らしく、無心に眠る坊やを見下ろす。
すべらかな頬の線が、幼いなりに形のいい小鼻の稜線が、
シーツの白との境、曖昧にするほどに白くて繊細で。
ここの近所のアウトレットモールで間に合わせに買ったそれだったから、
パジャマ代わりのトレーナースーツは少し大きめで。
片方は手の甲までおおっている袖、
もう片やは肘まであらわになっているところがまた、
何とも無邪気であどけなく。
―― 傍若無人なほど我儘で強引で。
だって子供なんだもんと、わざとらしくも示すけど、
この子の場合はそれって微妙で。
『遅くなっても良いって。』
『ホントか?』
『おお。ルイんチの別荘に泊まって来るって言って来た。』
『そんでもだな。』
それならそれで、一応お預かりしますとのご挨拶しとかないとと、
イグゾースドノイズを聞いて坊やが飛び出して来た自宅のほうへ、
改めて向かいかかった葉柱の背中、ダウンジャケットごと両手で必死に掴み、
『いいから行こうって。』
異様なくらいに早く出掛けようと主張するので、
しかもそれが…何かしらで誤魔化されてない、あまりに率直な態度だったので、
『…何かやらかしたか。』
『………。』
うっと総身がこわばった正直さもまた、言っちゃあ悪いが らしくはなくて。
まま離れたいらしいのは酌んでやっての、オートバイを出し、
少し離れた辺り、
初詣でを目指す人の波が増え出した街路沿いの喫茶店へと場を移し、
改めて訊いたところが、
『…あんな?』
『おお。』
『俺、もう2、3人兄弟増えても良いからって、つい言っちまってさ。』
『…っ☆』
今時の子供はおマセだから、意味も分からずにそんな言いようもするだろう。
あまりに即妙な言われようだとしても、
テレビで見たとかそんな程度の背景しかないもの。
大人の側だって深くは考えないものだけど、
『父ちゃんはともかく、母ちゃんには言っていいこっちゃなかったなって。』
中身もちゃんと大人ばりの蓄積持ってる子であるがため。
これってセクハラ発言じゃね?と、ハッと気がつく聡い坊や。
しかも、大好きな人を傷つけてないかと、
そこまで悟ってしまう彼だから…そしてそうなんだと、こっちも判るものだから。
却ってこっちも困ってしまう、相変わらずに奥の深い坊や。
“なりふり構わずやりたいことやってますってな、
そんな奴だと思えりゃ問題ないのかもな。”
母上へそんな物言いしちゃったとハッとしたのは、
調子の良いばかりな子供じゃあないこと、
母上には気づかれてるのを察していればこそだろう。
そして、
―― それと同じこと、
もしかしたらばこの自分にも言えるのかもしれないなと、
良いように振り回してるだけ、
使いやすい便利な大人だとだけ思われている方が、
実はこの子の側にしても随分と気が楽なのだろうにと。
そういうややこしい機微のようなことくらいは、
いくら朴念仁な葉柱でも何とはなく判っており。
いい子ぶりっこし通す演技なんて とっくの昔に必要なしとされていての、
泣いたり笑ったり、素のお顔、いろいろと見せてもらえている自分は、
タメグチ利ける対等な扱いだってことに止まらず、
そのままその内面をかなりがところ見せてもらえてもいる、
彼からは随分と心許されている存在となってもいて。
“…いやいや、まだ今んところは使いでのある兄ちゃんってだけかもな。”
身を起こしたときに床へと突いたそのままの手。
何につつかれたか、かすかに身じろいだ坊やの頬が触れ。
おや邪魔かなと退けかかったところが、
「〜。」
それが何だか判らなんだか、
薄く開いた目許がじ〜〜っと視線を向けて来てのそれから。
「〜〜〜。」
手の甲へと頬を載せて来、ぐりぐりと擦りつけて来た日にゃあ。
“え? あ・いや、待て。ちょっと、おいおい。//////////”←あ
寝ぼけ半分、だからこそ何の思惑も含まないのだろ、
仔猫のような屈託のなさでの懐きようへ。
あわわ、そんな可愛いことされたら……と、
妙に焦ってしまったお兄さんだったりし。
今年も相変わらずな人たちとなりそうです、はいvv
〜Fine〜 09.01.01.
*きっとその内心では
“惚れてまうやろ〜〜〜っ”とか言ってるかもしれない、
自分だって自覚の薄い、困ったお人です。(笑)
どんだけ坊やから“好き好き独占したいぞビーム”が放たれてたことか、
まだ気づいとらんのか、こやつはもう。(苦笑)
めーるふぉーむvv


|